シーン24「14年のサイクル」

 ルーナ図書館。ここには、歴史に関する書物が多く納められているという。
 図書室に入ると、本棚にはぎっしりと本が並んでいて、風格を漂わせている。

「すごいでしょ。蔵書は200万冊以上にもなるそうよ」

 200万……途方もない数だった。

「200万か……まさに知の宝庫だな」
「ええ。とりあえず、二人は座っていて。飲み物を持ってくるから」

 そう言うとフリーデルトさんは奥へと消えていった。Kさんに誘われ、部屋の中央に行くと、そこには大きな机が置かれている。それぞれ椅子に腰掛けると、机を数多の色の光が照らしているのに気がついた。光の方向を向くと、いつのまにか雨はやんでいるのか、美しいステンドグラスの大きな窓から月の光が漏れている。夜なんだ。もう帰らないといけない時間だけれど、話を聞かずに帰ることもできなさそうだ。

「あの……もう閉館時間のようですけど、使っても大丈夫なんですか」
「それなら問題ないさ。彼女、ここで働いているから自由に使って問題ない」

 そうだったんだ。そこに、ちょうどフリーデルトさんがやってきた。

「おまたせ」

 笑顔でコーヒーを持ってきてくれるフリーデルトさん。ステンドグラスを背にしたフリーデルトさんからは神々しささえ感じた。何だろう。私はこの人の空気を知っている。どこかで会っている気がしてならない。そういえば、リアさんとはじめて会った時も同じような感覚になった。何かあるのだろうか。

「さーて、何から話そうかしらね」

 ゆっくりと席に着くと、フリーデルトさんはこちらを見つめ、さっきとはうって変わった真面目な顔つきをしていた。

「歴史について語っておいたほうがいいんじゃないか? 特に地震のことは一度話しておく必要があるだろ?」
「ええ、そうする」

 地震のこと? 全然方向性の違う話の気がするし、地震は嫌いだった。孤児院でも地震のことを聞かれたっけ。

「アイ? 早速だけど、地震はどういうメカニズムで起こるか知ってる?」

 それは、最近習ったからよく知っていた。

「えーと……まず、プレートがぶつかり合う場所で起こります。プレートが沈み込む所ではもう片方のプレートが引っ張られるから力が蓄積して溜まった力が解放されて地震が起こります」
「うん、よく勉強しているのね。他にはどんなものがあると思う?」
「確か活断層がずれる直下型地震というのもあったと思います」
「ええ、代表的なものはその二つね。でもこの地方に起こる地震はそれとは全然性質が違う。別物よ」

 性質が異なる地震。でも、起こる結果はそう変わらない。正直メカニズムなんて、どうでもいいと思うのだけれど何でこんなことを聞くのだろう。

「ん? どうしてこんなこと聞くのかって思ってる?」
「あ、ハイ」
「じゃあ、別の質問。この地方で大きな地震が起こったのは最近だと14年前ね。過去にさかのぼると、小さいものも含めたら28年前、56年前、84年前、98年前、126年前、140年前。それ以前にも起こってはいるんだけど、ここまで聞いて何か気付いたことはない?」
「えーと……多いですね」
「ふふ。確かに多いわね。でも注目して欲しいのは数字。14、28、56、84、98、126、140。これらの数字には規則性がありそうな気はしない?」

 14、28、56、84……全部14の倍数になっているけど、それが何か関係あるのかな。地震の周期性の話のような気がする。

「地震は周期的に起こるってことですか?」
「あっ、近い近い。でも周期的なら14年間隔だったり28年間隔なのはおかしいでしょう?」
「14の倍数」
「うん、そうそう」

 周期的でない、それでいて14の倍数という規則的な数字で起こる地震。確かに何かありそうだけれど、まだ話がよく見えてこなかった。

「そして、もう一つ興味深い事実があるの。産業革命が起こったのは240年くらい前なんだけど、地震が起こりだしたのはちょうどそのあたりからなのよ」
「でも、それって記録が残ってないだけの気がします」
「ううん。記録は少なくとも過去400年のものならかなり信頼度の高いものよ」
「つまりだ、人間の活動と関係している可能性があるってことだよ」

 そこまで口を閉じていたKさんが突然口を開いた。でも、どうも話が飛びすぎているような気もしたし、地震が起きるのに人間が関係しているなんて考えられないと思う。

「そういえば、さっき性質が違うって言ってましたよね」
「ええ、これについては一つ興味深い学説があるの」

 そう言うと、フリーデルトさんはステンドグラスに視線をやった。

「月の光が綺麗ね。さっきまで悪かった天気が嘘のよう」
「ええ、硝子もとても綺麗ですね」
「人って何かを見て感動するでしょう。それってすごく大事なことだと思うな」

 そういって、フリーデルトさんはコーヒーをすするのだった。

「うん、月が関係しているのよ」

 月……正直、フリーデルトさんからはすごく知的な印象を受けるし、今の話も真面目にしていると思うのだけれど、どうもファンタスティックな方向に行き過ぎていると思う。

「ん? こんな話は空想だと思う?」
「ハイ」
「ふふ、正直な反応ね。でも、これは真面目な話よ。ちょっと難しい話になるけど歳差運動って知ってる?」

 さい……さ運動。

「地球は自転しているでしょう? でもその自転軸の傾きは常に一定ではない。というわけで、実演してみましょう。K、あれを出してもらえる?」

 そう言うとKさんは何かを取り出した。見かけない形だけど、何だろう?

「これはコマ、っていっても知らないよな。外国のおもちゃ。ちなみに俺の故郷のもの」

 Kさんはコマの軸の部分を掴むとひねって弾みをつけて転がし始めた。すごい、くるくる回っている。クルルも取り付かれたようにその回転に見入っていた。

「軸の部分に注目して。首を振るように回っているでしょう」

 本当だ。でも、不思議。倒れそうなものなのに。

「自転軸が首を振るように回る現象。それが歳差運動よ」

 一分くらい回り続けたあと、突然円を描くように走り始めたかと思うとその動きを止めた。クルルは気に入ったのか、コマをいじりまわしている。気に入ったのかな。

「あらあら、気に入っちゃったみたいね」
「ええ」

 そうやって、遊んでいるクルルの姿はかわいらしかった。こういうおもちゃは意外に好きなのかもしれない。

「じゃあ、話の続き、しましょうか」

 さて、仕切りなおし。それにしても、フリーデルトさんの知識は底が知れなかった。きっと、たくさん本を読んでいるんだろうな。

「地球は主に太陽と月の重力を受けて歳差運動をするの。正しくは潮汐力なんだけど、とりあえず細かい話はおいておくね。歳差運動は地球に様々な影響を及ぼすわ。例えば過去の氷河期は歳差運動によるものね」
「凄いな、フリーデルト先生は。そろそろついていけなくなってきた」

 そう言うとKさんはおおげさに頭を抱え込むのだった。難しい話は私もよく分からない。
 何となく歳差運動というのが地震に関係あるのかなとも思ったけれど、それは今までの話とはつながらないと思う。この地方の地震の性質が違うというのもそうだし、人間が関係しているのもそう。

「歳差運動はある一定周期で起こるの。氷河期に関係あるような大きな周期は4万1000年周期で起こるんだけど、それよりも小さな周期で微妙な歳差運動が起こる。その周期がちょうど14年ね」
「でも、それだったら地球全体に影響が及ぶと思います」
「あっ、偉い。そうそう。だから、ここで出てくるのが命の起源の物語」

 なんだか、途方もない話になってきた。そう言えば、いつから月の話になったんだっけ。話はまだまだ長く続きそうだった。