シーン22「死に瀕するとき」

 私は目を閉じた。

 次の瞬間、金属同士がぶつかり合うような大きな音が響き渡る。予想外のその音に目を開けると、そこには青いポケモンが立っていた。ルカリオ。その手で刃を受け止めている。
 私の隣にはいつの間にか、男の人が座り込んでいた。

「ここは、俺が食い止める。そのポケモンを連れて早く逃げるんだ」

 よく分からないけれど、ここは逃げるしかない。足に力を入れると、なんとか立てそうだ。右手でクルルを抱くと向きを変え走り出した。

「おっと、逃がさないよ」

 砂嵐の奥にもう一人いる。女の人の声。こちらも、黒い衣に身を包んでいる。
 後ずさりした。でも後ろには逃げられない。黒服の隣にいる影の赤い目が妖しく光る。

「ゲンガー、黒い眼差し」

 途端に足が重くなった。走れない。

「ちっ。もう一人いたか。カイリュー、吠える」

 オレンジ色の巨体が登場すると共に天地を切り裂くかのような怒号が響き渡る。全てのものが立ち上がることができないほどの空気の振動。奥の黒服も伏せているのが見えた。気付くと足が軽くなっている。ゲンガーがいなくなっていた。

「カイリュー、大文字で炎の壁を作れ」

 私と黒服の前には何メートルもの炎の壁がそびえていた。
 炎の壁が空にかけられたカーテンのように揺らめき、私を徐々に記憶の世界へといざなっていく。



 うなる地面。降り注ぐ瓦礫。
 (逃げなきゃ)
 火をまとった瓦礫が激しく降り注ぐ。
 (これは、いつのキオク?)
 私を抱いて誰かが走っている。その時、また地面がうなりをあげた。
 (地震だ)

――あの地震は多くの命を奪ったわ。あの子の病院も火事になって……

 あの子……ママ? そうだ、ママだ。
 一筋の光が見えた。出口だ。助かる。


 次の瞬間、天地が逆転した。
 目を開けると、ママは私の上で必死に瓦礫を支えていた。

「もう、お別れなのかな?」

 (嫌だよ、お別れなんて)

「ごめんなさい、助けてあげられなくて……本当に……ごめんね……」

 (謝らないで。ママは何も悪くないんだから)


 ……どのくらいの時間が経ったのか。少しだったかもしれないし長い時間だったかもしれない。
 遠くから足音が近づき、徐々に大きくなってくる。
 (誰?)
 私はやってきた誰かに抱かれると、ママは一層笑顔になった。そして、何かを差し出すのだった。
 (ママも助けなきゃ)
 でも、ママを見ようとしたとき、そこにママの姿はなかった。
 (?)
 そこは、もう瓦礫で埋もれていた。

 揺らめく炎の中、私の意識はどこか遠くへと飛んでいくようだった。