シーン16「雨降る森の中で」

 降り注ぐ雨。
 雨脚が強くなる中、一人雨に打たれていた。クルルもきっとこの雨の中、どこかにいるのだろう。

 たくさんの路地を歩いて回った。だけど、どこにもその姿は見つからなかった。この夜の闇が憎くてしょうがない。どうして、こんな時に雨が振るのだろう。そう思った。
 歩き回っている間、色んなことを考えていた。私は今までクルルに何をしてこれたのだろう。クルルは幸せだっただろうか。クルルにとって私はどんな存在だったのだろうか……


 その時、唐突にひらめいたのだった。
 クルルと出会ったあの森。もしかしたら、あそこかもしれない。

 いざ駆け出すと水溜りの水がはねて、だけどそんなことを気にしてもしょうがない。
 路地を抜け森の中へ。真っ暗な森の道。地面がぬかるんで走りにくい。そして、転んでしまった。もう靴の中から服までびしょぬれだった。だけど、早くクルルを見つけないと。

 立ち上がり、暗がりのなか林道を進むと潮の香りが強くなってくる。海が近い。
 やがて広い空間に出る。あの墓地だった。

 だいぶ目は慣れてきた。雨ももう気にならない。

「クルルー。クルルーーー」

 声を振り絞った。きっとクルルはここにいる。何故かそう思った。


 しばらくの沈黙の後。遠くの方に何かを見つけた。あれは、人?
 その人影には何となく見覚えがあった。近づいていくとその姿がよりはっきりしていく。

 それは、リアさんだった。

「これでよし……と。ふぅ」

 リアさんの膝の上にはクルル。よかった。リアさんが見つけてくれたんだ。

「この子でしょ」
「ハイ」

 クルルを抱き上げるとすごく暖かい。よかった。本当によかった。
 一層強く抱き、頭をただ撫でていた。
 だけどその時、違和感を感じたのだった。よく見ると手にはハンカチが巻かれ、それは血に染まっていた。

「ケガしてるのよ、この子。止血はしたから大丈夫」

 クルルはいつものようにボーっとしているけれど、出血量がかなり多そうだった。ハンカチで巻かれた手が痛々しい。

「ちゃんと手当てした方がいいわ、早く帰りましょう」
「ハイ。そうします」

 そして、その時ふと横を向いた時に見た文字列。

(Liebe)

 リーベ……それは、墓標に刻まれた名前だった。何故かこの名前が気になった。




 それから、クルルを抱いて急いで帰った。

 リアさんは家の前まで付いてきてくれた。
 リアさんにお礼を言って家に入ると、まだパパは帰ってきてないようだ。明かりのもと、クルルの手を縛ってあるハンカチを見ると真っ赤に染まっている。早く手当てしないと。
 お風呂場に連れて行き、傷口をシャワーで綺麗に洗い流す。そのあと、湿ったガーゼで傷口を覆い周りをテープで固定した。その間、ずっと無表情のクルル。頭をなでても反応しない。
 この子との距離はまだ縮まってないのだろうか。

 軽く体を拭き着替えていると、ポケットに蜻蛉玉が入っていることに気がついた。クルルのお気に入りの蜻蛉玉。水分を拭き取ってクルルに差し出すとそれを受け取り、まじまじと眺めている。やっぱり、お気に入りみたいだった。

 洗濯物をまとめていると、リアさんがクルルに巻いてくれたハンカチが目に付いた。ハネッコがかわいらしくプリントされたベージュのハンカチ。リアさんは案外少女趣味なのかもしれない。

 そろそろ料理をしないとパパが帰ってくる頃だ。急いで台所に向かった。