シーン15「クルルがいなくなった日」
孤児院を出た先で待っていたのはリアさんだった。
その表情はいつもの優しい顔つきと違い、緊張にこわばっている感がある。
「ん? この人、アイの知り合い?」
「うん」
リアさんは壁にもたれたまま私達の様子をうかがっていた。やっぱり、いつもとどこか雰囲気が違う気がする。
「ねえ、アイ? 一緒に帰りたいんだけど、いい?」
「え?」
みんなの方を向くと、いいよという表情だった。
「あ、ハイ。ご一緒します」
そうしてリアさんと一緒に帰ることになったのだった。
空を雲が覆い始めているのが分かった。さっきまではあんなに天気がよかったのに。
「アイ?」
上を向いて歩く私にリアさんが不思議そうに声をかけた。
「空を見るのが好きなの?」
「はい」
「なんか、急に天気悪くなったね」
「はい。降りだすかもしれないですね」
赤く染まっていた空が今は覆い隠され、すっかり暗くなってしまった。
「そういえば、今日はどうしたんですか?」
「ああ、あんた昨日ポケモンを飼っているって言ってたでしょう。見てみたいなと思って」
「そうですか。結構かわいいですよ。ただ、ものすごく無愛想なんですけど」
「無愛想……か」
何故かリアさんはそうしんみりとつぶやくのだった。
そうして歩いているうちに家にたどり着く。
「そういえば、家の人大丈夫?」
「はい。今は家に誰もいないはずなので」
そう言って玄関のカギをはずそうとした。でも、その時いつもと違う違和感を感じたのだった。
「ん? どうしたの?」
「いえ……それが開いているみたいなんです。あれ……」
この時間にパパが帰ってくることは無いはずだし、家を出る時に閉め忘れたのだろうか。でも、そんなことは今まで一度も無かった。
「ダメよ。このあたりは治安がいいからいいけど開けっ放しはさすがに危ないわ」
おかしいなと思いつつも扉をあけ、リアさんを招き入れる。
「ただいまー」
クルルはきっといつものようにリビングで外を眺めているのだろう。リアさんを連れて奥へと歩いていった。
「クルル、ただいま」
……でも、そこにクルルの姿はなかった。
「……クルル?」
「どうしたの?」
「いえ、いつもはここにいるんですけど……」
そう、いつもはここにいる。
「あれ?」
「ん?」
「窓……開いてる」
窓がわずかに開かれカーテンがゆれている。まさか、落ちたんじゃ。
あわてて窓に駆け寄ると枯れた草の上に足跡が続いている。間違いない。外に出て行ったんだ。
「外、探してきます」
急いで外に出て窓のところまで行くと草の間に何かが光っているのが見えた。
拾ってみるとそれはクルルの蜻蛉玉だった。家の周りを一周探してみた。だけどいない。家の中に入れるような所もなかった。出窓の開いた隙間から入ったとも思えない。
どこ……どこに行ったの?
「いないの?」
「ハイ。早く探さなきゃ」
「うん。私も探すよ」
でも、どこに行ったのだろう。見当もつかなかった。
「じゃあ、私その辺の路地見てくるから」
そう言ってリアさんは走っていった。
クルルの行きそうなところ。
もしかするとノールアインス硝子館かもしれない。
路地を駆け足で抜けていく。もう夜が近い。急がないと。
ほどなく硝子館に着き、館内を見て回った。だけど、どこにもいない。
「あれ、君はこの間の」
そう、声をかけてきたのは、あのお兄さんだった。
「あの、色違いのプラスル。見ませんでしたか?」
「いや、見てないよ。どうしたの?」
「あ……そうですか。失礼しました」
ここにはいない。
硝子館を出るとだいぶ暗くなっていた。他にクルルの行きそうなところは……?
その時、一滴の粒が落ちてきた。
上を見上げると黒々と立ち込めている暗雲から雨がぽつぽつと降り注いできた。それはすぐに強くなり、街をぬらしていく。
遠くを走っている車が水しぶきをあげて走っている音がよく聞こえる。街は静まり返り、夜の装いを見せつつあった。
冷たい雨。早く見つけないと暗い中、一人で震えているかもしれない。
クルル……本当にどこに行ったの?