シーン13「リアの視点から。アマネへの電話」
――喫茶店『ザルツ・プラット』二階にて……
外がだいぶ暗くなったころ。私はエリオスの部屋で考え事をしていた。
……色違いのプラスル
アイの言っていた、あの言葉。それを聞いてから胸がもやもやして気持ち悪い。
あの悲しい存在のことを思い出していた。それは倫理的に存在することは許されず、しかし生まれてしまった存在。それからは不幸の連続だった。姉さんには本当に悪いことをした。この私の罪は、一生消えることはないだろう。あの頃の私は狂っていたと思う。
エリオスはそんな私の心とは関係無しに、バスケットの中でかわいらしく寝息を立てて眠っている。いや、この子も辛いのかもしれない。
色々考えていると、どうにも落ち着かず電話をかけることにした。
廊下に出て、電話をかけると程なくつながった。
「もしもし。リアだけど」
「はい、アマネです。リア様、お久しぶりです」
「うん、久しぶり。あんた、携帯でしょ。こうやって親父を気にせず話せるわけだし、すごく助かるよ。親父にこの電話してるの見られてないよね、大丈夫?」
「ええ、今私の部屋からかけています。ですからご心配には及びませんよ。旦那様ですが今、我がソミティア家主催の記念行事のパーティーのため宴の間で食事をされています。それよりリア様、何かありましたか?」
「え?」
「いえ、お声の調子がいつもと違ったようですので……」
気づかれていた。アマネはそういうことは目ざとく、すぐ分かる子だった。
「あ、気づいた? でも大した事ないからへーきよ」
「そうですか……でも、もし私に何かできることがあれば何なりと申しつけて下さい。出来るだけリア様の力になりたいと思います」
「うん。ありがと。にしても今日パーティーなんだね。こんな時に普通に電話したらあの親父、大噴火すること間違い無しね」
「そんなことないですよ。確かに旦那様はリア様には厳しいですが、時々寂しそうにしているように見受けられます。ですから、それも汲んで下さると助かります」
「私もあんたみたいに優しくなれたらいいんだけどね。でも、しばらく親父と話する気はないわ。アクエリアにだって戻らない。それより、姉さんはどう? 元気?」
「クレア様ですが、それはもうお元気ですよ。今日もお庭に出て野生のハネッコと遊んでおりました。その時のクレア様は本当に幸せそうで、越冬のため南に飛び立つハネッコに最後まで手を振っていたものです。それから夕凪の中、今度は時々遊びに来るジグザグマとじゃれあっておりました」
「そう……まあ、相変わらずって感じね。どうせ、今はパーティーなんか出ずに自分の部屋で硝子をいじってるんでしょう?」
「ええ、お察しのとおりです。先ほどお部屋に伺ったのですが、時々窓辺に遊びに来るチルットをお部屋に招き入れ、お戯れになっているのを拝見しました」
「チルットねえ。まあ、姉さんらしいか……」
姉さんはポケモンが大好きで硝子が大好きでいつも笑顔で……
でも、あの地震の日、姉さんは大切なものを二つ奪われた。それから姉さんはどんどん弱っていった。
エリオスが来たあの日、姉さんは少し元気になった気がする。でも、エリオスは病気がちで危篤状態になった時、私は魔の提案をしてしまう。
そして、姉さんは……
私の責任は重い。
「……リア様?」
「あ……ごめん」
「まだ、あのことで自分を責めてらっしゃるのですか?」
「ええ……あんなことしなければ……」
「リア様。あまり自分を責めないで下さい。クレア様も分かってくれるはずです」
「姉さんは優しいから何だって許してしまうのよ。だからその優しさには甘えられない」
「リア様……」
「……それより」
気になることが一つあった。
あの悲しい存在……フィンは三年前のあの日に死んだはず。そう、死んだはずだった。
「今日おかしなことを聞いたのよ」
「おかしなこと、ですか?」
「うん。前に話したでしょう。赤い瞳の女の子のこと」
「はい、伺いました」
「その子が言っていたのよ。色違いのプラスルを飼ってるって」
「……フィン」
「ええ」
「でも、ただの偶然の可能性も」
「分かってる。だから確かめようと思う」
「そうですか。でもどうやって……」
「大学の方に知り合いがいるのよ。そいつに見てもらう」
あてはあった。
とはいえ確かめた所で私は何をしようというのだろう。でも気になってしょうがない。
「それにしても姉さんが元気そうでよかった」
「ええ、最近は安定しております。ジークリード先生のお墨付きです。引き金となることさえ起こらなければ今後も安定するそうです」
「うん、それを聞いて安心したわ。じゃあ、そろそろ切るね。お母様によろしく伝えておいてくれる? 元気にしてるって」
「はい。奥様には確かに伝えておきます」
「うん、よろしく。じゃあ、切るね。おやすみ」
「はい。リア様もいい夜をお過ごし下さい」
アマネに電話をかけるのは数ヶ月ぶりだった。
あの子は私になついているし本当に可愛い。髪を二つに結っている外見もそうだし、何より人当たりが柔らかかった。そして、何といってもメイド服が似合っていた。私が男だったら絶対に離さないだろうな。
久々にアマネとも話せたし、姉さんも元気そうだし、さっきまで鬱だった気分はだいぶ晴れやかになっている。電話してよかった。
明日は確かめに行かないといけない。フィンに会うことになるのだろうか?