シーン10「炎の記憶」

 モンスターボールからホログラムのポケモンが現れる。ホログラムといっても、それと分からないくらいリアルだ。
 ユーリのリザードンとヴェルナーのヘラクロスが激しくにらみ合う。

「うわ、運わりー」

 そう言うと、いきなりヴェルナーはヘラクロスを戻した。続いて出てきたのは最も美しいポケモンといわれるミロカロスだ。

「どくどく」

 ユーリがそう指示するとリザードンは空気を大きく吸い込み黒い液体を一気に吐き出した。ミロカロスはそれをかわす暇もなく正面から受けてしまう。

「なるほど。リザードン対ヘラクロスという状況では強い強制交換力が生じるから、交換を誘ってのどくどくね」

 間髪いれず、ジルエットの解説が入る。
 その時ミロカロスの体がほのかに輝き始めた。

「わざわざ不思議な鱗を発動してくれてサンキューな」
「あのなぁ……それだから負けてばっかりなんだよ」

 ユーリはあきれ返って肩を下ろす。ジルエットはそれを見てニコニコしている。

「あらあら、もう決着は殆どついちゃったわね」
「え、もう分かるの?」

 シアリィが目をぱちくりさせている。

「リザードン、身代わりを作れ」

 ユーリの指示を受け、リザードンの姿を一瞬煙が包み小さな怪獣のぬいぐるみみたいになった。ヴェルナーはそれにつばを飲む。

「ハイドロポンプ!」

 激しい水の勢いに身代わり人形が思い切り吹き飛んだ。

「もう一度、身代わりを作れ」
「ハイドロポンプ!」
「更に身代わり」

 身代わりが壊されてもすぐに作り直される身代わり。よく見るとミロカロスは毒に顔をゆがめていた。

「くっ、卑怯だぞ。身代わりばっかりやりやがって」
「卑怯なんかじゃない。戦略だ」

 そういっている間にもどんどん毒が強くなっているようだ。

「くそっ、ハイドロポンプだ」
「身代わり」
「くっ、じこさいせい!」

 その指示にミロカロスは身を輝かせた。白いオーラのようなものが身を包み一気に顔色がよくなっていく。
 その時、ユーリの口元が緩んだのを私は見逃さなかった。

「今だ、日本晴れ」

 身代わり人形が天を仰ぎ見たかと思うと一気に雲が晴れた。雲の合間からまばゆい光が一気に降り注いでくる。 

「何が起こってるっていうの?」
「日本晴れ。大地をカンカンに照らす大技ね。次にアレがくるわ」

 ミロカロスはさんさんと降り注ぐ日差しの中、力なくハイドロポンプを撃ち出した。
 現れたリザードン本体は息を大きく吸っていてもう攻撃のモーションに移っていた。

「いけっ。大文字!」



 ……ここから先は全てがスローモーションに見えた。

 熱い炎がゆっくりと地を這いミロカロスに迫っていく。
 それが本当にゆっくりと見えて私の記憶の一部と融合していく……



――本能的に覚えている炎の記憶。焼け落ちる建物。火の粉が舞い、煙が天井を伝っている。私を抱いて走っているのは誰? うなる地面。その人は転んだ。上から瓦礫が降り注いできた。赤い瞳が私を見つめる。

「もう、お別れなのかな?」
(……え?)
「ごめんなさい、助けてあげられなくて」

 その人の目には涙が溢れていた。

「本当に……ごめんね……」

 その人は必死にその体で瓦礫を受け止め、私を守ってくれた。私は動くことが出来なかった。動きたい。でも、この体はいうことを聞かない。どんどん熱くなっていく。それでも、その人は涙を流しつつも笑顔で私を向いてくれる。ねえ、あなたは誰?
 火が徐々に迫ってくる。その熱気に意識が遠くなっていくのを感じた。