シーン7「虚ろなクルル」

 あのクリスマス・イヴの思い出。あの日には本当にいろんなことがあった。それから約三年間。クルルと私の距離はどのくらい縮まったのだろう。
 クルルはというとさっきからずっと窓の外を眺めている。窓の外には狭い通りに枯れた木々が点々と立っているだけ。人通りも殆ど無い。その変化の無い風景にクルルは何を見ているのだろう。屋根の間から見える雲を見ているのだろうか。今日はいい天気だった。

 私はクルルとの生活が始まってからすぐに様子がおかしいことに気がついた。クルルは殆ど感情を表に出さなかった。それに声も殆ど出さない。それである日、マグダネーラさんに相談しに行ったのだ。
 しかし、それはマグダネーラさんも初めて見る症状だった。トレーナーとの関係が悪くて言うことを聞かない事ならあるらしい。だけど、ここまで感情を表に出さないというのは極めて稀なことらしい。もしかすると前のトレーナーとの間に何かあったのかもしれないとのことだった。もちろんクルルが捨てられたポケモンかどうかさえもはっきりとは分からない。
 その後、マグダネーラさんの勧めでパパと一緒に隣町のポケモンセンターに連れて行った。そして、同じく過去にあったことが影響しているのではないかとはじめは診断された。でもそれは心の問題で時間が解決してくれる。女医さんもそう言っていたし私もそうだと思っていた。でも時間は何も解決してくれなかった。
 私は出来るだけクルルには優しくしたし、パパもそうだった。暇な時はクルルと遊んだり、クルルの好きな食べ物を調べたり、夜は一緒に寝たり色々な事をした。でもクルルは一緒に遊ぼうともしないし私のすることにも殆ど反応しなかった。食べ物の好き嫌いは一応あるらしく、食べるペースがほんの少し違ったり食べ残すかどうかで何となくは分かった。今、思えばそれは単なる自己満足だったのかもしれない。それでも出来るだけの事はした。
 それからまた少ししてポケモンセンターに連れて行った。他に考えられる可能性としては心の病気かもしれないということだった。心の病気は脳や体に根本的に異常がない限りは何かしらの治療法が確立しているらしい。一応体の方も調べてもらったし脳にも特に異常は見られなかった。それから心理カウンセリングに通ったり薬で治療をしたこともあった。それでも何も変わらなかった。結局は何も分からなかったのだ。
 とはいえ今のところは感情を表に出さないこと以外、何も問題はなかった。ただ、少し病気がちで風邪をひいたりすることは多かった。

 でもこれはやっぱりすごく不健全なことだと思う。クルルにとって何が幸せなのかは正直分からなかった。それでもこの子の虚ろな瞳を見ていると胸が痛んで何かをしてあげないといけないという気持ちになる。もしかしたらいつかは心を開いてくれるかもしれない。

 窓からはさんさんと秋の日差しが入ってくる。今日は暖かい。それにすごくいい天気だ。時計の針はちょうど十一時をまわったころ。私はクルルを散歩に誘った。

「散歩に行こう!」