シーン4「リアの視点から。病気のエリオス」
――アイが帰ったあとの出来事……
空が暗みを増していく。おそらく今日はもうお客さんは来ないだろう。私は二階のエリオスが気になった。
エリオスは病気がちだった。生まれて半年も経たない内に重い病に犯されその後一年間危篤状態が続いた。今はもうそれほど心配がないとはいえ病気がちなのには変わりは無い。思えばエリオスが危篤状態になったあの日から運命の歯車は狂い始めていたのかもしれない。私があんな提案さえしなければ……
エリオスはおとといからまた熱を出した。薬を与えたとはいえやはり心配だった。私はエリオスのいる二階に急いだ。
「エリオス。入るよ?」
扉を開くと部屋は真っ暗だった。急いで明かりを灯すとエリオスは窓際に座りカーテンの隙間から外を眺めているようだった。それはエリオスの癖だった。私に気付くときまりが悪そうに振り向くエリオス。
「駄目じゃない。ちゃんと横になってないと」
「プラ……」
エリオスのその声には元気が無い。私はエリオスを抱きしめるとそっとバスケットの中に横にし、自分とエリオスの額に手を当てた。熱は無いようだ。
−コン、コン−
ノックの音。マスターだろう。
「ん。入ってー」
ドアが開かれ入ってくる。背後を振り返るとマスターが心配そうな顔をして立っていた。
「どうだい。調子は」
「熱は下がったみたいね。でもまだ油断は出来ないわ」
「おや、リアはポケモンの病気も分かるのかい?」
「そっちは専門外。悪くなるようだったらまたお医者さんを呼んだほうがいいわね」
「そうか。でもとりあえずは一安心だな」
「……そうね」
我ながら、最後の言葉は覇気が無かった。少し沈黙が続く。
マスターの少し不審そうな顔に気がついたが私は聞かずにいられなかった。
「ねえ、今日来たあの子。どう思う?」
マスターは少し驚いたようだった。確かに私の声には焦燥、苛立ち様々な感情がこもっていたし今までマスターの前でこんな行動をとったことは無い。私は自分を抑えられず態度でマスターに返答を促した。マスターは頬をポリポリとかきながら少し目線をそらしながらも答えてくれた。
「あのお嬢ちゃんかい。かわいい子だったね」
「そうじゃないって。あの子の目。気付かなかったの?」
言葉が勝手に出てしまう。何? この感情は。早く抑えないと。
「ああ。雰囲気が何となくクレアに似ていたな。でもそれがどうかしたのかい?」
マスターの言うとおりだ。今日来たあの子……アイは姉さんに何となく似ている。でもそれだけだ。似ていた所でそれが何だというのだろう。それでも気になってしょうがない。今日あの子を誘ったのも気になってしょうがなかったからだ。初めてあの子を見た時どきっとした。
「姿、形の似ている人間の確率なんて……ううん、やめておくわ」
「また、うんちくを聞かせてくれるんじゃないのかい」
「今日はやめておくわ。それよりそろそろ夕食にしましょう」
この時にはもう冷静さを取り戻していた。エリオスはばつが悪そうに私の顔を見ている。病み上がりなのに悪いことをしてしまった。
もしこの子の病気が無かったら、と考えることがある。もしそうなら、感情表現豊かな元気なポケモンだっただろうに。そして、あの悲劇は起こらなかっただろうに。