シーン1「リアさんとの出会い」

――リアさんとの出会い、それは三ヶ月前のことだった。あの日も私はいつものように食材を買いに市場へと足を運んでいた。


 九月。まだ夏の暑さが残る季節。


 学校帰りに市場によるとそこはもう人でごったがえしていた。あちこちから威勢のいい声が聞こえてくる。
 私はあまり人の多いところは得意ではなかった。だから雑踏を掻き分け、急いで目当ての店へと向かう。今日はミネストローネを作る予定だった。私にはママがいない。だから料理は私の役目だった。
 いつもの店によって、いつものように品定め。今、ストックの中で足りないのはトマトだけだった。トマトを手に取るとそれはすごく瑞々しくてまっかな表面に自分の顔が映りこんでいる。つまらない表情をしている、そう思った。

 トマトを買い、家に帰ろうと思ったそのとき、思いきり手をはじかれる、と共に私の手をはじいた何かは一目散に走り去っていく。若いお兄さんのようだった。失礼な人だな。
 その時、気づいたのだ。ない。財布がなくなっている。盗られたんだ。

「ドロボー」

 その声はむなしく市場の活気に消されてしまう。追いかけるしかない。



 お兄さんはもうずっと遠くだった。人ごみを抜け裏通りへ。どんどん距離が離れていく。お兄さんは別の路地へ曲がり視界から消える。速い。私もやっと路地を曲がると、そこに飛び込んできた風景は予想外のものだった。

「ヒ、ヒッ」

 お兄さんはしりもちをつきたじろいでいる。

「す、すいませんでした」

 そして、走り去ってしまった。
 また、追いかけようと走り出したそのとき手をぐいっと引かれた。振り向くと、それは少し背の高いポニーテールのお姉さんだった。あれ? この人……

「あんたの大事なもの、これでしょ?」

 そういうとお姉さんは私のお財布を私に差し出した。

「あ、ハイ。ありがとうございます」

 そう答えつつも何だか不思議な感覚に陥っていた。私はこの人の空気を知っている。そんな気がした。

「ん? どうしたの……って、あんた!」

 私は肩を抱き寄せられるとその人は何を思ったのか私の顔をじろじろと見ている。いきなりだったのでびっくりした。

「赤い目……」

 そして、そっとそうつぶやいた。それで気が付いた。この人も目が赤い。

「っと、ごめんね。私何やってるんだろ」
「いえ、それよりお財布、本当にありがとうございました」
「ああ、あんたが走っていくのが見えたから待ち伏せて回し蹴り。口ほどにもなかったわ」
「回し蹴りってそのスカートでですか」
「ああ、多分ぱんつは見えてないよ」

 いや、そういう問題でもないと思うんだけど。

「それよりさ」

 お姉さんは少しいたずらそうな目をしている。

「私の店に来ない? 私の店、喫茶店なんだけどさ、全然人が来なくてね、暇なんだ。ちょっと暇つぶしに付き合ってよ」

 知らない人にむやみについていってはいけないと、いつかパパに教えられたことがある。でも何故かこの人の雰囲気は何か懐かしいものがあった。それに悪い人でもないと思った。だから、喫茶店にお付き合いすることにした。

「そういや、あんた名前は?」
「あ、アイっていいます」
「私はリア。よろしくね」

 それがリアさんとの出会いだった。